僕は、長く続けてきた商売を廃業し、生活安定のため取りあえず就職することにした。

なぜ、”取りあえず”なのかというとサラリーマンには定年退職というハードルがあることと、この”ふれあいネット”を開設しているように、将来自分が元気でいる限り他人の役に立つ人生を送りたいと考えていたからだ。

自分がしたい仕事”ふれあいネット”を実りあるものにしていくためには、これからの人生を捧げる仕事として再就職先を探すより、家業を廃業して、”ふれあいネット”を起業して行くまでの充電期間と考えた。

しかし、現実の問題もある。
子供の学費を送りながら、自分も生活して行かなければならないし、56歳というシニアになる一歩手前の年齢、将来は自分が思っているような社会福祉の仕事を起業したいと思っていたので再就職先として葬儀会社を再就職先として選んだ。

また、これまでの自分の人生を棚卸して総決算をしてみたところ、昔は好きな仕事として半導体のエンジニアをしていたが、昔の技術など今では役に立たない。
小売業としての商売も苦境を乗り越え何とか安定させたが人口減少、高齢化の社会の大きな流れの中で決して成長産業と言われるものではなく同じパイの取り合いのように思えた。
また、自分のしたい仕事を子供に継がせる気はなく、子供は子供の人生を自分で考えて決定していけば良いと考えているので、自分が起業し完結できる仕事であることが大切なことに思えた。
いろいろ考えてみると、今の自分には今の時代に役に立つキャリア・資格・スキルが全く何も無いことが分かった。

僕に残されていて、他人に役立ちそうなものは、自分の両親を亡くし、妻の両親を亡くし、小さな乳児を残して妻も亡くし、その中でも男一人で子育てをしながら今まで生きてこれた経験だけであることに気が付いた。

僕には社会福祉士などの資格もないが、自分の人生の経験をもとに、大切な人を、家族を亡くして途方に暮れる人たちの役に立ちたい、一人残された者の孤独・不安・絶望・・・を共有し、和らげることで、今まで今まで生きて来られたことに対する恩返しの仕事がしたいと思った。

これらの条件が、再就職先として葬儀会社を選択した大きな理由であると思う。
もちろん、自分が始めかけている”ふれあいネット”を運営する上での基礎知識を習得することが大きな目的であるから、長く勤めるつもりはないが、親や伴侶を亡くした人々と直接接する機会が多い仕事なので”ふれあいネット”に対する実務の経験としては良かったと思っている。